第一章
計を立てる 168
孫子曰く:戦争の術は国家にとって最も重要なものである。
それは生死を分かつものであり、安全へと導く道にもなれば、滅亡へと導く道にもなる。ゆえにそれは決して軽視してはならない研究の対象なのである。
戦争の術はすなわち五つの不変の要因に支配されている。これらは戦場の条件を判断しようとするときに、自らの思慮のうちに考慮に入れるべきものである。169
これらとは:(1)道義;(2)天;(3)地;(4)将;(5)法である。170
道義は民を統治者と完全に一致させるものであり、それによって民は生命を惜しまずに統治者に従い、いかなる危険にも怖れることなく立ち向かうようになる。171
天は昼夜、寒暑、時間および季節を意味する。172
地は距離の遠近、危険と安全、開豁地と狭隘地、生死の可能性を包含する。173
将は知恵、誠実性、仁愛、勇気および厳格さの徳を象徴する。174
法とは軍を適切な下部組織に編成すること、将校間の階級制度、軍に糧秣を供給する道路の維持、および軍事費の統制を意味する。175
これら五つの要項は全ての将軍に熟知されるべきものである。これらを知る者は勝利を得るであろう。これらを知らない者は失敗するであろう。
したがって、軍事状況を判断しようとするときの思慮にあたり、これらを比較の根拠とすべきである。以下のとおりである:176
二人の統治者のうち、どちらが道義に満ちているか。177
二人の将軍のうち、どちらがより優れた能力を有しているか。
天と地から生ずる利益はどちらの側にあるか。178
どちらの側でより厳密に法が遵守されているか。179
どちらの軍がより強力か。180
どちらの側の将校および兵士がより高度に訓練されているか。181
どちらの軍において賞罰がより一貫しているか。182
これら七つの考慮を通じて、私は勝敗を予測することができる。
私の忠告に耳を傾け、これに従う将軍は勝利するであろう。そのような者を指揮官として留任させよ。私の忠告に耳を傾けず、これに従わない将軍は敗北するであろう。そのような者は解任すべきである。183
私の忠告の利益に注意を払うとともに、通常の規則を超えた有利な状況があれば、それをも活用すべきである。184
状況が好都合である限り、自分の計画を変更すべきである。185
凡そ戦争は欺瞞に基づくものである。186
ゆえに、攻撃できるときは攻撃できないように見せ、軍を用いるときは不動に見せ、自分たちが近くいるときは敵に遠く離れていると信じさせ、遠く離れているときは近くいると信じさせねばならない。
敵を誘き寄せるために餌を垂れ、混乱を装って敵を撃破するのである。187
敵があらゆる点で安全であれば、これに備えよ。敵が優勢であれば、これを避けよ。188
敵が気性急躁なら、これを怒らせようとせよ。弱いふりをして敵を傲慢にさせるのである。189
敵が休息をとっていれば、これに休息を与えるな。190 敵の軍が一致していれば、これを分裂させよ。191
敵が準備していない所を攻撃し、敵が予期しない所に現れよ。
勝利へと導く軍事戦術は、あらかじめ他言してはならない。192
いま勝利を得る将軍は、戦闘の前に自分の陣営でおびただしい計算を行う。193 敗北する将軍はあらかじめ計算をほとんど行わない。かくしておびただしい計算は勝利へ導き、わずかな計算は敗北へ導くのである。計算をまったく行わなければなおさらである。この点に注意することによって、誰が勝つか負けるかを予見することができるのである。
第二章
戦争を遂行する 194
孫子曰く:戦争の作戦において、戦場に千台の軽戦車、同じく千台の重戦車、およそ十万の鎧甲を身にまとった兵士があり、195 千里を行軍するに足りる糧秣があるとき、196 国内での支出と前線での支出、客人の饗宴、膠や塗料などの小物品、戦車と武具に費された金銭を含めた総支出は、一日につき千両の銀に達するであろう。197 これが十万人の軍を編成する費用である。198
実際の戦闘に従事するとき、勝利が長く遠ければ、兵士の武器は鈍くなり、その気概は減じられるであろう。199 町を包囲すれば、自分たちの力を消耗させることになる。200
さらに、もし戦役が長引けば、国家の資源は負担に耐えられなくなるであろう。201
さて、汝の武器が鈍くなり、闘志が減退し、力が消耗し、財宝が枯渇するとき、汝の窮地に乗じて他の族長たちが立ち上がるだろう。そのとき、いかに賢明な者といえども、その後に続く必然の結果を防ぐことはできないであろう。202
したがって、戦争における愚かな急ぎのことは聞いたことはあるが、賢明さが長引く遅延と結びついたことは見たことがない。203
長期の戦争から国が利益を得たという例は存在しない。204
戦争の害悪を徹底的に知る者のみが、これを行う利益ある方法を徹底的に理解することができるのである。205
巧みな将軍は第二次の兵員募集を行わず、また補給車も二度以上積み込まれることはない。206
戦争物資は故郷から持参し、敵地で食糧を調達せよ。そうすれば軍隊は必要な食糧を十分に確保できるであろう。207
国庫の貧困により、軍隊は遠方からの献金によって維持されることになる。遠方で軍隊を維持するための献金は、人民を貧困に陥らせるのである。208
一方、軍隊の近接は物価を上昇させ、高い物価は人民の財宝を奪い去らせるのである。209
財宝が奪われるとき、農民は重い課税の苦しみを受けるであろう。210
このような財宝の喪失と力の消耗により、人民の家は裸にされ、その収入の三割が散逸されるであろう。211 一方、政府の支出、すなわち壊れた戦車、使い古された馬、胸甲と兜、弓と矢、槍と盾、防護服、引く牛と重い車のための支出は、総収入の四割に達するであろう。212
したがって、賢明な将軍は敵地での食糧調達を重視する。敵の食糧一車分は、自軍の二十車分に相当し、同様に敵の斗升一杯は、自軍の備蓄から二十杯分に相当するのである。213
今、敵を殺すためには、我が兵士たちは怒りに駆られねばならず、敵を撃破することによる利益があるためには、彼らに報酬を与えねばならないのである。214
したがって、戦車戦において、十台以上の戦車を奪取した場合、最初にこれを奪取した者たちに報酬が与えられるべきである。215 敵の旗は自軍の旗に置き換えられ、戦車は混合されて、自軍の戦車と共に使用されるべきである。捕虜にした兵士は親切に扱われ、保持されるべきである。
これを征服した敵を利用して自軍の力を増す、と称するのである。
戦争では、汝の大いなる目的は勝利であり、長期間の戦役ではないのである。216
したがって、軍の指揮官は人民の運命の仲裁者であり、国家が平和にあるか危機にあるかが依存する人物であることが知られるのである。217

